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大学生の『NHK記者はなぜ過労死したのか 未和』の要約と思ったこと

 

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『目次』 

 過労死事件の経緯・背景の要約

仕事の具体内容

労働の実態

業界と企業の特質

時代背景

改善点

 

『本文』

 まずはこの著書の主人公である佐戸未和の過労死事件が起きるまでの背景と過労死事件の経緯を述べる。

彼女は2005年に一橋大学法学部を卒業後、鹿児島のNHKの放送局で数年働いた後に東京の首都圏放送センターに2010年に転勤して東京都で仕事するようになった。彼女は選挙の取材を中心に仕事をしていた。その後、2013年に横浜放送局に転勤して一ヶ月経たずに自宅で倒れているところが発見された。

 

 そして、重要なところは佐戸未和の死亡が2013年に確認されてから2017年にNHKが社会に公表するまでの経緯である。

彼女の両親はなぜ娘が死んでしまったのか、その原因を求めていた。ある日、過労死の疑いがあるのではないかと知り合いに言われ両親たちは過労死問題の第一人者である川人弁護士の元を訪ねた。そして、彼らは未和さんに関する資料を彼女の使用していた手帳や連絡に使用していたスマートフォンの記録から勤務実態を掘り起こす作業を始めた。

その結果、時間外労働が発症二ヶ月前は188時間4分、そして発症一ヶ月前は209時間であることが発覚した。厚生労働省が過労死ラインと定めている月80時間を大きく上回る数字である。それにより、2014年5月に渋谷労働基準監督署長から労災が認められた。また、母の恵美子さんは東京過労死を考える家族の会の中原のり子さんと出会った。

その後、2017年の働き方改革が月100時間未満の時間外労働を容認する案が含まれていて、月80時間を超える過労死ラインが認められることになるため過労死家族会は抗議の声をあげた。ここで恵美子さんは同じ境遇にある人たちと交流を広げ、娘を死に追いやった社会と向き合ってみようと思えるようになったようだ。ある時、恵美子さんはNHKで働いている多くの人が自分の娘の悲劇を知らないということに気づいたのだ。美恵子さんと父親の守さんのNHK首都圏放送センターとの協議の結果、公表することになったのだ。

しかし、実際に過労死の番組の中で未和さんについて語られたのはたったの2分16秒だった。そして、いくつもの曲解や圧力に耐えかねて、両親は記者会見を開き自分たちの口で事実を伝えることにしたのだ。なぜNHKは両親が公表を望まないとしていたのか。なぜならばNHKが最近の政府の記者の過労死を目玉にしょうという動向に引っかからないようにするためだそうだ。

事実を自分らの口から伝えた両親によって世間に約4年ぶりにやっと世間に公表されたということに驚いた。

 

 次に、事件の背景と経緯をまとめた後はNHK 記者の佐戸未和の仕事の具体的な内容を述べる。

NHK にはまず報道の柱となるものが2本あり、そのうちの1つが選挙である。選挙に関する業務の大きな目標は正確に当確判定をするということだ。私たちがよく目にする選挙の日の夜にテレビ局が競争して生放送をしているものだ。なぜ当確を出すことが早い方がいいのかというとその選挙にそのテレビ局がどれほど深く調査ができているかということに対する指標になるからだ。また、当確判定を一番初めに出したテレビ局がその当選者に対するインタビュー権にも関わるからとも言われている。

しかし、当確判定を急ぎ過ぎてもいけないようだ。推計による判定のため間違えて落選者に当確判定を出してしまう場合もあるようだ。そのときの当確判定を間違えた記者に対する罰は重い。そのような重圧の中で選挙の取材に関わることは大きな精神的負担になっていたことであろう。また、分刻みのスケジュールと日をまたいでも仕事をしている記録から選挙期間の記者の負担は想像のつかないほどのものであると考えられる。

 

 次に、著書のあるページの労働時間集計表から労働の実態を考える。以下の表は佐戸未和が最後に出勤した7月23日の一週間前までの労働時間の記録を示す表である。

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出典:未和 NHK記者はなぜ過労死したのか(尾崎孝史 岩波書店 2019 P122~123)

 

厚生労働省の定めた過労死ラインは月80時間の時間外労働であるが一週間で時間外労働時間が40時間を超えているということはたった二週間で過労死ラインを超えてしまう。また、彼女の直近の休日は約2ヶ月前の6月29日であるため約2ヶ月間働きっぱなしと考えるととんでもない状況だということがよくわかる。ある一週間の総労働時間が100時間を超えていたり、ある1日の労働時間が21時間を超えていたり、国を代表するテレビ局の労働時間の管理とはとても思えない。

 

 さらに、このテレビ業界とNHK という企業の特質について考える。

どの会社にも一般的に労働組合というものが存在するが、NHKにももちろん労働組合が存在する。それは日本放送労働組合、通称“日放労”である。労働組合の役割は労働組合法や労働三権に基づいて雇用主より立場が弱くなってしまう労働者が団結して雇用主と対等に意見が言えるようにできるようにするということである。

しかし、日放労はNHKという雇用主と対等ではなく、組合としての機能を果たしていないということがわかった。一般の会社であれば組員である社員が過労死すれば組合の中で情報が上がり、組合のルートでNHK の社員にも情報が伝わるはずにも関わらず、守さんによると日放労はむしろ伏せているようにも見られたようだ。

また、元日放労放送系列委員長のHさんと面会した守さんの話によると日放労の執行委員自体が会社の仲介役であるそうで、半ば会社に推薦されて選ばれるものらしい。そのような状況では会社に反対するようなことはもちろん出来ない訳で、本当に労働組合として成り立っているのかがとてもきになるところである。

更に、Hさんは委員長を退任するまでの二年間、佐戸未和の経緯というようなタイトルの文書を作っていたのだが、いつの間にかなくなっていたのだ。これが何者かによる犯行だとは言わないがこのファイルがあればもっと詳細にわかったことがあったであろう。日放労は組織としての取材を未だに拒否をしているようだが、ぜひいつか取材をして真相を得てほしいと思った。また、この事件が起きたにも関わらずNHKの誰一人として処罰されていないということもまた大きな問題であると思う。

 

 それでは、当時の事件が発覚した時の時代背景はどのようなものであったのだろうか。

ある記者によると、当時は働き方改革の実現に向けて世論を喚起するための一因として政府はNHK記者の過労死を槍玉に挙げようとしていたらしい。しかし、遺族の大きな騒ぎにはしたくない意向が政府に入ったためターゲットをNHKから電通に変更したという情報があったようだ。遺族のおかげでNHK が標的にならなくてよかったという思いが社員にあったとしたらならそれはとても不謹慎な話だ。自分たちの会社が政府のターゲットにならないようにという意識のせいで、噂を伝っていくうちに遺族の言葉を過大にしてしまったのではないかと思う。

国会で働き方改革が決まった時、過労死を考える会の会員らは悔し涙を流したそうだ。一見、働き方改革が決まれば労働時間が減って過労死になる人はいなくなっていくから喜ばしいことではないかと思われるが、実際の残業時間上限は過労死ラインを下回っていないのだ。また、高プロ制度と呼ばれるものに遺族は大きく反対している。高プロ制度とは高度プロフェッショナル制度の略で、高度な専門知識を必要とする仕事に就く労働者に給与を増やして労働時間の制限を外す制度のことである。適用には労働者の同意が必要であるが、雇用者と労働者が対等であるとは思えない。働き方改革による残業時間の上限規制や同一労働同一賃金のようなアメの裏には高プロというムチがあることは知らなかった。高プロがある限り過労死は無くならない。

 

 以上のように、佐戸未和に関する過労死事件の論点を述べてきたが、改善はどうあるべきなのだろうか。

まず、NHKの労働組合である日放労にしっかりとした権利を与え会社と独立した組織になるべきだとおもう。労働者にとっての駆け込み寺が機能していなければ過労死のような問題を防ぐことは難しいと考える。

次に、みなし労働時間制を改善すべきだと思う。みなし労働時間制とは労働者がそれより多く働いても少なく働いても働いた時間がみなし労働時間とされる制度だ。1日8時間をみなし労働時間としたとき、6時間働いても10時間働いても8時間働いたものとされ給与は同じであるということだ。メリットに関してはワークライフバランスが可能になることと効率的に仕事をすることができるらしい。しかし、現状はそのようなメリットは少ない。みなし労働時間制が採用されていると会社側からのたくさんの仕事を与えられると労働者は必死に仕事をしなければならなくなり結果として労働時間が多くなってしまうのだ。8時間のみなし労働時間に対して9時間の労働時間が8時間にみなされるパターンを想定されていても、実際には8時間とは大きくかけ離れた労働時間が8時間にみなされてしまうことが大きな問題となる。また、みなし労働制が対象とされている業種は専門家のような一部の業種なのだが、本来導入できない会社が勝手にみなし労働時間制を適用してしまうことが問題となっている。

 

 以上、過労死事件の経緯と背景を要約して仕事の具体内容、労働の実態、業界と企業の特質、時代背景、改善点の5つの論点から『NHK記者はなぜ過労死したのか』について考えを述べた。事件の背景やNHKの実態から変えなければならない働き方を学ぶことができた。これからの未来の働き方についても多くの論点が話し合われている時代であるため、過労死の事件を詳しく知ることができたことからより深く考えていきたい。

 

 

参考文献:

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか(尾崎孝史 岩波書店 2019)

働き方改革法成立、『過労死が増える』高プロを遺族批判『雇用主と対等ではない』https://www.bengo4.com/c_5/n_8121/ (2019年12月8日入手)

大手電機会社の過労死問題から考える、裁量労働制でも残業代請求できるケースとは?

https://www.zangyou.jp/columns/732/(2019年12月8日入手)